2023年 6月15日(木)クリエイトジャパンブログ
オーストラリアの職業別年収ランキング
前回のブログに続き今回もお金にまつわる話題で恐縮ですが、先日チャンネル9のウェブ版で、オーストラリアの職業別年収ランキングが発表されていたのでご紹介します。オーストラリア経済活性化の先頭を切って引っ張っているのは、きっとこういう人たちなのだろうなと、羨望の眼差しとため息を漏らしながらお届けしたいと思います。
以下、為替レートは6月15日現在(AUD1=JPY94.87)を適用
【第10位】 ファイナンス投資アドバイザー $169,608(約1,600万円) 国内に20,258人存在
●4月号のブログでオーストラリア人は貯蓄はせず投資をする、という内容を書きましたが、資産を構築していくためには長期的戦略を立てたり、財務リスクを管理する必要がありますので、当然専門家のアドバイスが必要になってくるのでしょうね。
【第9位】 CEOおよび取締役社長 $177,508(約1,684万円) 国内に224,015人存在
●ランキングしている職業の中では一番多い人数だそうです。
【第8位】 裁判官および法律専門家 $193,388(約1,835万円)国内に4,000人以上存在
●裁判官、弁護人、弁護士、企業弁護士、税務弁護士など様々な職種に渡りますが、意外と人数は少なく感じます。
【第7位】 資源(鉱山)関連エンジニア $196,178(約1,860万円)国内に9,127人存在
●オーストラリア人の平均年収が$68,289(正規雇用以外全ての労働者を含む。正規雇用だけだと文献にもよりますが約$92,000)なので、3倍弱の年収に相当します。
【第6位】 一般医およびその他医師 $251,722(約2,388万円) 国内に28,947人存在
●その他医師には放射線科医、病理学者などが含まれます。
【第5位】 精神科医 $270,412(約2,565万円)国内に3,071人存在
●多民族国家のオーストラリアでは、150以上の言語でメンタルヘルスサポートを行っています。
【第4位】 内科医 $334,267(約3,170万円)国内に10,055人が存在
●ちなみに日本の内科医の年収はネット情報によると、1,400万円〜2,000万円が45%、1,000万円〜1,400万円が39%とのことです。
【第3位】 ファイナンシャル・ディーラー $341,798(約3,242万円)国内に4,761人存在
●緊張が続き気を抜けない仕事だとは思いますが、これぐらいの収入があれば大概のことは我慢できるでしょうか。
【第2位】 麻酔科医 $426,894(約4,050万円)国内に3,379人存在
●人の生死に関わる重要な仕事、かつ膨大なスキルと経験が必要なので、これぐらいの年収があって妥当とは思いますが、それにしても庶民からすると想像がつかない金額ですね。ちなみに日本の麻酔科医全体の平均年収は1,584万円で、人手不足が深刻だとネットに出ていました。
【第1位】 外科医 $457,281(約4,338万円)国内に4,157人存在
●4年間の医学学位を取得後、5〜6年の訓練が必要とのことですが、やはり外科医の所得はどの国でも凄いですね。
以上コメントをつけてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?日本の観光地への投資が続いていますが、この方たちからすると数億の物件はきっと大した金額ではないのでしょうね。日本の職業別でも少し調べてみましたが、第1位は医師(1,400万円弱)、第2位はパイロットと大学教授(共に1,000万円強)だそうです。パイロットは各国のパートナー航空会社同士でシェアしていることもあり、国によってそれほど年収に差はないようですが、オーストラリアではパイロットはトップ10には入っていません。大学教授の年収もオーストラリアでは1,500万円以上あるそうですが、やはりトップ10にはギリギリ入っていません。
日本もオーストラリアも医師は人の命を預かる重要な職業ですので、高収入なのは同じ環境なのですが、労働環境においては大きな差があることに注目すべきだと思います。実習生や研修医として多くの日本人医師がオーストラリアの医療業界での経験をブログなどで書いていますが、その歴然とした差に皆さん愕然としています。ある文献には1週間の日本人医師の労働時間は平均57時間以上、オーストラリア人医師は平均44時間未満と書いてありました。有給休暇の取得も含め換算すると、日本人医師はオーストラリア人医師より、年間1ヶ月以上多く働いているという結果らしいです。検索するといろいろな日本人医師のブログがヒットしますので、もしご興味があれば読んでみてください。
今回は日本とオーストラリアの経済力の差がはっきりと理解でき、とても参考になる記事を見つけましたが、なんだか自分の世界とは異なり過ぎてどうもピンとこないので、今日は早めに仕事を切り上げパブでビールを飲むことにして、自分なりの人生を謳歌しようと思うのでした。
6月6日(火)クリエイトジャパンブログ
オーストラリアの最低賃金がまたもや上昇!
オーストラリア連邦政府の公正労働委員会の発表によると、年度が新しくなる来月7月1日よりオーストラリア国内の最低賃金が、現行の21.38豪ドルから8.65%引き上げられ23.23豪ドルになります。仮に週40時間働くとすると週給が929豪ドルです。本日現在の為替レート(1豪ドル約93円)で換算すると、時給が2,160円、1週間40時間勤務で86,000円以上の収入になります。あくまでもこの金額は最低賃金ですので、経験があり特別なスキルがある人や、人材不足が深刻な業界においては、この金額を上回る収入があることは言うまでもありません。
日本のメディアでも時々取り上げられているように、現在この高賃金の労働環境を狙って、日本から多くの若者たちがオーストラリアに押し寄せています。「出稼ぎ」と言う言葉が適当かどうかはわかりませんが、まさに収入を得ることを最大の目的として来豪するわけです。もちろん純粋に英語の勉強や海外経験を積むことを目的にしている人もいますが、以前は存在していなかった稼ぐためにオーストラリアにやってくる人がいることは、長年オーストラリアに在住している筆者にとっては、とても不思議な現象で、予測できなかった状況です。
このような状況の中で懸念されるのは、若手を中心とした日本からの人材流出です。一つの例としてご紹介すると、オーストラリアのメルボルンはコーヒーのメッカとして世界的にも有名で、カフェ文化が市民に深く浸透し、コーヒーに対してこだわりが強く舌も肥えているので、海外からバリスタを目指す若者が修行にくる都市として知られています。ここ数年バリスタの経験を積みたい日本人も多く来豪し、日本のカフェアルバイトとは比較にならない高収入を得ながら、英語を取得しつつバリスタとしての経験を積んでいます。こういった現象は飲食店に限らず、介護士やその他の職種、業種にも起こっていることなので、このままでは日本の人材不足が加速化するのではないかと懸念します。
一昔前まで日本は稼げる国として貧しい国から大勢の出稼ぎ労働者を迎え入れていました。しかしその受入体制はしっかりとした制度があって成り立っていたとは言えず、現在のオーストラリアのように健全で透明性のある人材確保とは異なるシステムだったと思います。ところが今の日本はその頃とは違う意味合いで、観光や教育、ビジネスを目的に世界中から「憧れ」や「夢」を持って外国人が訪れる国になりました。人手不足は深刻な状況ではありますが、一方世界中から人が集まるとても幸運な時期でもあります。今こそ日本は古い概念や慣習を見直して、未来志向の新しい労働の仕組み、海外からの労働者の受入体制、日本独自の技術や伝統文化の後継者制度など、勇気と信念を持って改革を積極的に推し進める時期ではないでしょうか。
一流バリスタを目指す人が「憧れ」や「夢」を持ってメルボルンに集まるように、日本ならでは技術や文化、ホスピタリティーに「憧れ」や「夢」を持って人が集まり、働ける環境とシステムが構築できれば、新たな人材を確保しつつ優秀な人材の流出をも防げるのではないかと思います。
5月30日(火)クリエイトジャパンブログ
スノートラベルエキスポがシドニーで開催され、過去最高の賑わい⁉︎
5月21日はメルボルンで、28日はシドニーでスノートラベルエキスポが開催されました。今年で17回目の開催となるエキスポですが、まだ正式な発表はないものの、シドニーのエキスポはもしかすると過去最高の入場者数を記録した可能性があるとのことです。また日本をはじめとする海外からのブース出展数は、今までで一番多かったようです。
毎年のことですが今年も日本のブースが大人気で、至るところで人だかりができ、通路を塞ぐ状況となっていました。エキスポ関係者の話によると、すでに日本行きの往復航空券を購入し、どのスノーリゾートに行くかを決めに来た方が多く来場されているとのことでした。実際、会場中央に位置する「BOOK HERE」の看板を掲げた旅行会社のブースでは、当日の会場オープンからクローズまでひっきりなしに予約する人たちの行列ができていました。ある日系旅行会社の方とも話しましたが、人気スノーリゾートの中には、冬の宿泊予約がすでにフルブッキングのため取れないエリアもあるとのことです。
日本へのスキー旅行人気がますます高くなる中、予約時期も今後どんどん早くなると考えられます。どのスノーリゾートを選ぶかは消費者によって様々ですが、受け入れる側は様々な課題を抱えていると思います。ベッド数や飲食店数の問題、人手不足、施設の老朽化、インバウンド非対応システムの改良など、ハード面ではすぐに解決できない課題もたくさんありますが、日本のサービス業ならではの対応の速さを生かして、予約行動が早い外国人向けの体制を整えることが肝要となります。
今は北米が強いスキー旅行市場ですが、日本国内のスノーリゾートが切磋琢磨しつつ、実行できることから課題をクリアしていくことで、いつの日か日本が世界トップのスノーリゾートカントリーになりますように!
5月22日(月)クリエイトジャパンブログ
カンタス航空が次冬シーズンから日本直行便を倍増
カンタス航空が次冬シーズンに向けて、11月26日から日本直行便を倍増させる計画であることがわかりました。具体的な運行スケジュールの発表は今後正式にあるとのことですが、下記のように変更になります。メルボルンとブリスベンからの便は成田着に切り替えになります。
<現在>
シドニー⇄羽田 週7便
メルボルン⇄羽田 週4便
ブリスベン⇄羽田 週3便
合計 週14便
<変更後>
シドニー⇄羽田 週14便
メルボルン⇄成田 週7便
ブリスベン⇄成田 週7便
合計 週28便
以上、今後のインバウンド受入計画の参考にしてもらえればと思います。
4月13日(木)クリエイトジャパンブログ
タンス預金をしないオーストラリア人
しばらく日本一時帰国中につき、今回は日本のテレビ番組を観ていて思ったことを書き連ねてみようと思います。
先日ある民放の番組で、日本の経済が低迷している一つの要因として、想像を絶する額の現金がタンス預金されている、という話題が取り上げられていました。解説をしていた経済評論家が言うには、全国民のタンス預金を合計すると何兆円にも達するのではないかとのことでした。その真偽のところはわかりませんが、控えめに考えても相当の現金が各家庭に保管されていることは間違いないと思います。少なくとも数万円から数十万円、家庭によっては百万円を超えるケースもあるのではないでしょうか。その番組によると日本政府は戦後になって国民に貯蓄を推奨し始めたらしく、消費は贅沢であり貯蓄は美学であるという戦後の考えが今も尚代々親から子へ受け継がれているのではないか、と解説者の話を聞いてふと思いました。筆者自身も贅沢は敵、という風潮の中で育った世代です。
一方オーストラリアはどうかというと、タンス預金ゼロとまでは言いませんが、このような習慣はあまり聞きません。数百ドル(数万円)の現金を保管している家庭はあるでしょうが、数千ドル(数十万円)の現金となるとそれほど多くないのではないかと思います。数万ドル(数百万円)以上となるといささか怪しいお金かもしれません。預金は給与などが振り込まれる普通預金(こちらに大金が入っている人は少ないと思います)や、普通預金よりも金利の高い定期預金などもありますが、ずっと低金利が続いているので人気はありません。ではどこに預けたり投資しているかというと、その大半は不動産であり、それに加えて債権、株、仮想通貨、スーパーアニュエーション(年金)などです。
スーパーアニュエーション(オーストラリア確定拠出年金)は日本の厚生年金に近い制度ですが、お金を預ける年金基金は民間企業です。例えばお給料が月給40万円の場合、雇用者は月給とは別に月給の10.5%の4万2千円をスーパーアニュエーションとして、被雇用者が指定した年金基金に3ヶ月分を3ヶ月ごとに払い込まなければなりません(現在は10.5%ですが、2025年までには12%に引き上げ予定)。この制度は正社員だけではなく、契約社員やアルバイトなど全ての労働者に対して支払う義務があります。つまり時給2,200円のカフェのアルバイトであっても、実質は時給2,431円となります。もちろん日本人の学生やワーキングホリデーにも適用される制度ですので、彼/彼女が永住しない場合は、帰国時に返金を申請できるシステムで、高額なタックスは引かれますが本人の口座などに戻ってきます。
お給料とは別に自動的に10.5%のお金が年金基金に振り込まれますが、それ以上の額を個人の判断で積み立てることも可能ですので、投資としても活用できます。この辺りは日本のiDeCoに似ているでしょうか。ハイリスクハイリターン、ローリスクローリターンなど、自分の好みに合わせてどのタイプの投資を選択するかは自由ですが、基金の経営状態が悪かったり、極端に運用利回りが低かったりすると政府から指導が入り、その基金の利用者に対して他の基金に切り替える検討をするよう案内が届くので、投資とはいえ比較的安心して預けることができます。
ちなみにオーストラリアにはエイジド・ペンション(Aged Pension)という別の年金制度がありますが、これは全て税金で支払われますので、永住権保持者で10年以上の滞在実績があれば、政府が定めた資産や収入をオーバーしていなければ、受給資格がある年齢に達した全ての国民に対して一定額が支給される制度です。いろいろ細かなルールがあり規定に沿って減額されますが、仮に満額受給される場合は夫婦で年間336万円ぐらいになります(為替レート1豪ドル90円の場合)。このような社会福祉制度の充実は、全国民の将来や老後の不安を払拭し、ついては老後を迎える前のホリデーや趣味などに費やす時間やお金にも好影響をお及ぼしているものと思われます。
話は戻りますが日本の番組に出演していた経済評論家によると、タンス預金というのは経済のためには何の役にも立ってないとのことでした(当たり前のことですが)。むしろ強盗などの犯罪を誘発したり、災害や火事によって現金が消滅したり、経済面でも安全性においても良いことがないように思うのですが、やはり日本はいざというときのためにまとまった現金を手元に置いておく必要があるのでしょうか。日本は特殊詐欺の被害者が未だに後を絶たないようですが、現金社会が生み出すマイナス部分の一面であるように思えてなりません、銀行の窓口に行けばそれなりの額の現金が引き出せるのですから。ちなみに私が利用しているオーストラリアANZ銀行のATMの引出し上限は$2,000ですが、最近ではATMでも現金をおろすことがなくなり、カードの暗証番号を忘れてしまうほどです。$2,000以上は窓口扱いになるようですが、現金を$1,000単位でおろしたことがないので、一体上限いくらまでおろせるかわかりません。大体、オーストラリアの銀行の窓口業務はほとんどなくなっていて、支店も次々と閉鎖されています。
オーストラリアでは結構前から現金社会は終わっていて、銀行の窓口というリアルな現場は前述したように無くなりつつあり、業務はほとんどがオンライン化されています。ショッピングに関してもクレジットカードが昔から主流です。オーストラリア経済が好調な理由の要因として、オンライン空間を大量のお金が活発にぐるぐると駆け巡っていることが挙げられるかもしれません。日本には「お金は天下の回りもの」という諺がありますが、まさにオーストラリアではそれが実践されています。日本はなかなか現金社会から脱することができず、タンス預金という形でお金は一箇所に滞ってしまい、もちろんそれだけが原因ではありませんが経済面においても長期的に滞ってしまいました。
筆者自身の役割として、せめて日本とオーストラリアの両国のお金をお互いに消費し合い、両国の間でお金を巡回させるお手伝いができればと考えています。オーストラリア人が日本で消費したお金の極一部で結構ですので、オーストラリアへ投資していただければ(プロモーションや誘客活動など)、それによって日本への訪問者や消費を益々増やすことができます。この健全なお金の流れや巡回を確立することで、日本とオーストラリアは互いに長期的に発展することができ、次世代やその次の世代に向け、この良好な関係を自信を持って受け継ぐことができると思います。また、「お金」だけではなく「人」や「物」も巡回させることで、経済面だけではなく国際交流や文化交流においても、世界的にもトップレベルの堅い信頼関係が築けると思います。
本ブログを書いているうちに少し趣旨が変わってしまいましたが、凄いスピードで改革が進む他の先進国のシステムに、日本社会の仕組みや制度が遅れをとらないことを願いたいと思います。
3月15日(水)クリエイトジャパンブログ
オーストラリア市場の魅力
前回のブログでご紹介した「オーストラリア人のホリデーの考え方」はとても好評で、いろいろな方から大変参考になったとご連絡いただきました。そこで今回も拙書「生き方改革のすすめ」から、「オーストラリア市場の魅力」について触れている箇所を抜粋してお届けします。全体を通して本書を読まないと、話の流れは掴めないかもしれませんが、経済パートナーとしてのオーストラリアの魅力はご理解いただけるかと思います。一般読者向けに執筆した書ですので、インバウンド業界の皆さまにとっては当たり前の情報もありますが、少しでも参考になれば幸いです。
以下、第二章「オーストラリアから学ぶ理由とメリット」から抜粋
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大国だけでなく小国からも学ぶ必要がある
その後留学機関での仕事を終え、東京のIT系システム会社で働くことになりますが、転職した理由はインターネット社会の始まりです。留学機関で働き始めた当時、まだインターネットは普及しておらず、留学生の募集は教育機関からの紹介や地元新聞広告に頼っていました。そうこうするうちに瞬く間にインターネットが普及し始め、見様見真似でホームページを作ってみたところ全国から問い合わせが相次ぎ、これから時代が大きく変化して行くことを感じ取りました。そこで実際にIT企業に身を置き、そのノウハウを培おうと思い立ち東京での生活を始めたのです。その会社でも営業を担当しシステム開発やアプリケーションの販売が主な仕事でしたが、海外での営業経験が買われ1年の3分の1ぐらいは現地法人のあったアメリカのシカゴに出張していました。そこで初めてアメリカ人と仕事をすることになるのですが、どちらが良い悪いということではなく、オーストラリア人とアメリカ人とでは同じ西洋人でも働き方や物の考え方が大きく違うことを実感しました。
日本は長年アメリカという大国からいろいろな影響を受け、そして多くのことを学んできましたが、もっと多くの国、特に日本よりも小国と呼ばれる国や成功している国からも学ぶべきだ、と考え始めたのもこの頃です。例えば「英語」という言語一つとっても日本は今もなおアメリカ英語が中心ですが、世界にはいろいろな種類の英語が存在します。同じ英語でもそれぞれの特徴があり、独自の言い回しや表現方法があります。それと同じように「働き方」「教え方」「遊び方」も国によって異なることを理解し、時にはそれを見習い、その改善に取り組んでいく必要があると思います。日本が誇るべき伝統、文化、風習などは多々ありますし、実際日本を「尊敬」や「憧れ」という言葉で表現する人々が世界には溢れています。しかしながら大変残念なことではありますが、日本の「働き方」「教え方」「遊び方」に対して、「尊敬」や「憧れ」の念を抱く人は限られています。むしろ「同情」や「違和感」を抱く人が多いのではないでしょうか。
では日本から見たら小国で、欧米に比べたら存在感の薄いオーストラリアという国から、日本は学ぶことなどあるのでしょうか。経済大国世界第3位の日本が、G7にも入っていないオーストラリアから見習うことなどあるのでしょうか。その答えを少しずつ紐解いていきます。
経済パートナーとして必須のオーストラリア
日本とオーストラリアは貿易や投資などを通じて、密接かつ良好な経済パートナー関係が築かれていますが、ここでは私の専門分野でもあるインバウンド業界を例に説明したいと思います。
私が日本での生活を切り上げて再びオーストラリアに渡ったのは、2000年に開催されたシドニーオリンピックの翌年でしたが、1回目と2回目の滞在とでは何もかもが大きく違っていました。物価の高さ、人の多さ、高層ビルの建設ラッシュ、商業エリアや新興住宅エリアの大規模開発、車は新車と高級車だらけ、まるで別の国に来たような錯覚に陥りました。ところが都市中心部からちょっと郊外に足を延ばすと、そこには以前とちっとも変わらない美しい自然がそのまま残っていて、これこそが自然との調和を重視したオーストラリアの経済政策の真骨頂だと思いました。私のハートを射止めたボンダイビーチも、以前より随分と観光客は増えたとは言え、2001年の再訪時もそして今現在も、「ボンダイブルー」は相変わらず美しい輝きを放っています。
1回目の滞在当時はまだ日本のバルブ経済の余韻が残っていたので、オーストラリアには毎年100万人近くの日本人観光客が訪れ、邦人駐在員とその家族も大勢住んでいました。私の仕事も日本人向けガイドブックなど、日本語メディアの営業やマーケティングの仕事がメインでした。しかしバブル経済の余韻は長くは続かず、この30年の間に日本人観光客は3分の1近くまで落ち込み、駐在員の数は半減しました。一方オーストラリアは、独自の移民法を活用して基幹産業に貢献する優秀な人材を海外から確保し、着実に人口を増やしながら堅実な経済成長を成し遂げました。ちなみにオーストラリアから日本への観光客数はコロナ直前で年間57万人以上に達し、日本からオーストラリアへの観光客数(2018年時点で約27万人)を大きく上回ります。観光業界における経済効果は人数ではなく「人数×一人あたりの消費金額」で算出しますので、オーストラリア人が日本の観光で費やした金額は約1千4百億円、日本人がオーストラリアの観光で費やした金額は約1千億強で、観光だけで見るとオーストラリア人の方が経済的に貢献していると言えます。ちなみに日本の人口は約1億3千万人、オーストラリアの人口は2千6百万人足らずなので、人口5分の1程度の小国にもかかわらずです。その要因は経済力だけではなく、社会の仕組みやルールにも起因しています。このことは第五章「休み方・遊び方改革のすすめ」で詳しく述べたいと思います。
話は戻りますが、日本とオーストラリアの経済状況の大きな変化により、必然的に私の仕事内容も大きく変わっていくことになります。日本人観光客や在豪法人の減少により、日本語のオーストラリアガイドブックの需要が減ってきたのです。その時にふと思いました。「そういえば自分はずっと日本の経済力に頼り、日本人がオーストラリアで消費するお金で生きてきたな。今からはその恩返しのつもりで、オーストラリアの経済力を何らかの形で日本に還元できないだろうか。オーストラリア人の消費を少しでも日本で費やせないだろうか」と。その想いから仕事内容が日本への観光プロモーションへと大きくシフトしていくことになります。
そこで当時はまだ珍しかったオーストラリア人向けの英語による日本ガイドブックを発行していたのですが、日本への出張を始めたきっかけは、ほんの些細な出来事が発端でした。ある日オフィスビルの共同トイレで手を洗っていたところ、隣のオフィスのオーストラリア人が突然話しかけてきたのです。「あなたは日本人だよね。僕は隣の不動産屋で働いているのだけど、『ニセコ』って知っている?」と。恥ずかしながらその時私は、「ニセコ」が地名どころか、果たしてそれが食べ物なのか人名なのか、はたまた当時人気があった日本のアニメのタイトルなのか、さっぱり検討がつかず「全く思いつかないけど、それは何?」と尋ねました。すると彼は「北海道にあるスキーリゾートだけど、今凄くオーストラリア人に人気で、物件の問い合わせが増えている。あなたがもし何かニセコの情報を持っていたら聞きたくて」と説明してくれました。その後オフィスに戻りすぐネットで調べたところ、確かにニセコは札幌から近い良質の雪が降ることで有名なスキー場であることがわかりました。その後長年に渡り毎年日本各地を回ってプロモーションの打ち合わせをすることになるのですが、当時のニセコへの10日間の出張は、私の人生を大きく変えるターニングポイントとなりました。日本への観光促進の仕事に携わって15年以上経ち、少しは日本の観光産業のお役に立てたのではないかと思っているところです。
一時的ではない長期的なパートナーシップ
話を経済の話に戻すと、なぜオーストラリアは安定した経済発展を持続できるのか、専門的な話になると長くなりますので、ここでは私なりの主なポイントだけ記しておきます。
●鉄鉱石などの豊富な資源と広大な領土
●独自の移民法を活用した人口統制と海外からの優秀な人材確保
●自給自足率220%を誇る安定した農・畜産業
●留学産業と観光産業における莫大な外貨獲得
●金融システムとITシステムの充実
●環太平洋経済圏に位置する抜群のロケーション
こう並べてみると、むしろ経済が後退する要因を探す方が難しいかもしれません。いずれにせよ冒頭で述べた通り私は経済学者ではありませんので、経済発展の要因を詳しく知りたい方は専門書を読んでいただければと思います。
観光業界における経済効果の算定は、人数だけでなく滞在日数や消費金額に起因することは前述しました。しかし他にも大きな要素がいくつかあります。その一つが日本を訪れる「季節」や「時期」です。日本のインバウンド業界に携わる多くの人は、外国人観光客を「インバウンド」と言う言葉で一括りにしがちで、オーストラリアもインバウンドの一部と捉えて他国と横並びで比較されることが多いのですが、オーストラリアが南半球の国だと言うことを今一度認識する必要があります。言うまでもなく日本や他の北半球の国とは季節が逆なので、日本のインバウンド業界にとって最も閑散期の冬に、しかも長期間訪れてくれるのがオーストラリア人なのです。一年の間で一番長期休暇が取りやすく、家族単位で活発に活動でき消費意欲も高い時期は、北半球でも南半球でも万国共通で夏休みだからです。オーストラリアの夏休み(サマーホリデー)はまさに「国民大移動」という表現がぴったりで、大挙して国内旅行や海外旅行に出かけます。北海道や信州・長野、東北などに、多くのオーストラリア人がスキー旅行に訪れているニュースを聞いたことがあると思いますが、まさにオーストラリアの夏休みは日本のスキーシーズン真っ盛りなのです。
そしてもう一つ経済効果を計測する上での重要な要素は、その「リピート率」の高さです。言うまでもありませんが一度来日して終わりではなく、毎年のように、または1年に何回も訪れてもらった方が経済効果は大きくなります。日本人がハワイを好きになり何度も訪れたり、芸能人が毎年のように年末年始をハワイで過ごしたりするのと同じように、一度日本を訪れたオーストラリア人はかなりの確率で再び日本を訪れます。スキー旅行の場合は雪質の高さに感嘆し、まず間違いなくその虜になります。フワフワな粉雪を「SNOW POWDER(スノーパウダー)と呼びますが、北海道や信州・長野、東北など日本のスキーリゾートのパウダーを「JAPOW(ジャパウ)」と名付けて、それを楽しむために毎年のようにスキー旅行に出かけます。日本人が白いビーチの南国に憧れるように、オーストラリア人は銀世界の北国に憧れるのでしょう。もちろんスキー旅行以外の観光も大人気で、JRが提供している乗り放題パスを駆使して、日本全国を縦横無尽に駆け巡ります。そして日本人のおもてなしの心、バラエティー豊かな美味しい料理、物価の安さ、古くから伝わる文化や風習、最先端をいくサブカルチャーなどを体感し、日本の魅力に取り憑かれることになります。オーストラリア人から見た日本の魅力を語りだすと熱くなり過ぎて、それこそ一冊の本が書けてしまうので本書ではこの程度でとどめておくことにします。
ちなみにコロナ前のオーストラリアの海外旅行者延べ人口は年間約1千2百万人弱、全国民の半分近くになります。数字の上での計算ですが、国民の二人に一人は毎年海外旅行をしているとはなんと豊かなのでしょう。お金があれば家や車や宝石は買えますが、海外旅行に出かけるにはお金以外に自由に使える時間や休暇制度、そして気軽に休める仕組みがないとできません。それについては第五章で詳しく触れます。
観光や資源などの経済的なつながりの他に、文化や教育、政治的なつながりにおいても日本にとってメリットは多々あると思いますが、本書の趣旨とは異なりますのでここでは割愛します。いずれにせよ今後も長期的な発展が期待できるオーストラリアは、日本にとって観光産業などを含む経済パートナーとして大切な存在なのは間違いありません。人口も日本とは対照的に2050年には現在の約1.5倍、4千万人に達すると言われています。とても言いづらいことではありますが、日本から見て小国や格下だと思っていた国はとっくに日本を抜き去り、日本よりよほど発展して暮らしやすい国になっていることを、そろそろ真剣に受け止め、学ばないといけない時期にきていると思うのです。
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以上、拙書「生き方改革のすすめ」からほんの一部を抜粋してご紹介しました。本書はオーストラリア人のホリデーに対する考え方だけではなく、働き方や学び方など、日本人のそれとは異なる仕組みや考え方を紹介していますので、ご興味・ご関心があればAmazon.jpにて検索してみてください。
2月15日(水)クリエイトジャパンブログ
オーストラリア人のホリデーに対する考え方
今回のブログは少し趣向を変えて、筆者が2022年2月にAmazonから刊行させていただいた、拙書「生き方改革のすすめ」から一部を抜粋して、オーストラリア人のホリデーに対する考え方をご紹介します。全てのオーストラリア人、全ての日本人に当てはまるわけではありませんが、国民のおおよそ7割〜8割の人が該当すると思います。本書は日本の将来を想い、オーストラリア人のライフスタイルが参考になればと思い執筆したものですが、日本のインバウンド業界の皆様にとっても関連のある内容となっています。今後何かのヒントになればとても嬉しく思います。
まずは、第二章「オーストラリアから学ぶ理由とメリット」から抜粋します。
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ホリデーありきの人生
まず「休み方(遊び方)」ですが、本書では「家族との時間共有や過ごし方」、「休暇や週末の過ごし方」を意味します。これはオーストラリア人にとって最も重要な人生のテーマであり、人生観やライフスタイルを確立するための大きな要素となっています。人生の中心に位置すると言っても過言ではありません。この「休み方(遊び方)」を達成するために「働き方」があり、その「働き方」を充実させるために「教え方(学び方)」がある、と言って良いほどそれぞれが密に連結しています。
例えとして「休暇(ホリデー)」に対する考え方を説明します。日本人にとって「休暇(ホリデー)」とは、一般的には何か達成したときの自分への褒美や、身体的・精神的に休養が必要な際に取得するものと考えている人が多いと思います。つまり「頑張った結果」や「疲れた結果」として「休暇」が存在します。「今年はよく働いて稼いだから冬休みは家族でハワイに行こう」とか「ストレスがたまってこのままだと病気になってしまうからそろそろ温泉でのんびりする時間が必要だ」といった感じです。
ところがオースラリア人は逆の発想で、何はともあれまずは「休暇」の時期や期間、訪れる国や地域などを予め計画します。そしてその計画が実現できるように、休暇以外の時期をどのように過ごすかをざっくりとですが設定します。「次の夏休みは家族で日本へ旅行に行くからそれまでに200万ぐらいは貯めておこう」とか「今度の冬休みは彼女とバリ島で数週間のんびりしたいからそれまでは有給は使わずにとっておこう」といった感じです。実際、日本へのスキー旅行はオーストラリア人に大人気なので、予約の取りづらい人気ホテルは1年ぐらい前から、中には2年前から予約する人もいるほどです。つまりホリデー(休暇)ありきの考え方で、よっぽどの事が起きない限り計画を変更することはありません。仮に経済的な要因で計画に支障が出てきた場合でも、金融機関からホリデーローンを借りて計画通りに海外旅行する人も少なくありません。これがホリデーに対するオーストラリア人の一般的な考え方です。
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続いて、第五章「休み方・遊び方改革のすすめ」から抜粋します。
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充実した有給休暇制度
細かな規則や条件は州によっても異なりますので、別の専門書を参考にしていただければと思いますが、大まかに説明すると、消化できなかった有給休暇は退職・転職の際に、会社が本人から買い取ることになります。例えば月20日勤務の月給30万円の人が20日間の有給休暇を消化できなかった場合、会社は本人に30万円を払って休暇を買い取る必要があります。消化できない有給が2ヶ月間(40日)だとしたら60万円です。そもそも2ヶ月分も有給があるの?と思われるかもしれませんが、週5日フルタイム労働者は年間4週間(20日間)の有給が与えられるので、2年間で40日になります。企業との契約にもよりますが、勤続年数が長ければ長いほど有給休暇は増えていく仕組みですので、同じ会社に長年勤めている人が有給休暇を消化しなければ、どんどん溜まっていきます。転職しながらキャリアップする人が多い国なので、優秀な人材を確保するために、長期間(例えば10年)に渡って勤務した人には更に長期勤労有給休暇も用意されています。
つまり企業にとってこの制度は、有給休暇を消化してもらわないとキャッシュフローが厳しくなる仕組みになっています。ほとんどの人はきちんと有給休暇を取得しますが、中には生活や貯蓄のためにわざと休暇を取らず現金をもらいたがる人もいます。こういう人は企業からすると少しやっかいな存在で、会社に貢献しているとはみなされません。日本とは全く逆の考え方です。どのオーストラリアの企業も、全ての従業員が有給休暇を取得することを前提に人材確保や人員配置、シフトやチーム作りを決定します。しかしながら大手企業ならいざ知らず、小規模の企業にとってこの制度は大きな財政負担になることから、現在はフリーランスやコントラクター(契約ベース)といった働き方も拡大しています。働く側も正規雇用ほど社会保証は適用されませんが、自由な時間で働けたり自分の都合で仕事を選べたりできるので、この形態は今後ますます一般化していくと思います。特に今後の「ウィズコロナ」の生活においては、更に定着していくことになるでしょう。
長期休暇を取得しても後ろ指を差されない社会
そして労働者が気兼ねなく長期休暇が取得できるもう1つの大きな要因は、職場がホリデーを取得する人を歓迎する雰囲気に満ちていることです。前述した金融機関時代の思い出、つまり長期休暇を取った人を後ろ指でさすのとは全く逆の雰囲気がオーストラリアにはあります。誰かがホリデーに行くとなると、周りは羨みながらも自分のことのように喜び、仕事もきちんと引継ぎ、旅行の土産話を楽しみにします。この仕事の助け合いを各自がホリデーに行くごとに繰り返し、全員が均等にきちんとホリデーを取得することになります。このような助け合い精神をオーストラリア人は「マイトシップ(Mate Ship)」と呼びます。この言葉はインターネットで検索すると出てきますが、オーストラリアに昔から伝わる古い気質みたいなもので、困っている人を助ける意識や精神を表しています。ここオーストラリアで暮らしていると、日々この「マイトシップ」に触れることになりますが、とても温かく、慈愛に満ちた精神だと感じます。この助け合い精神に関しては次の章でも少しだけ触れようと思います。
このようなホリデーに対する基本的な考え方は、業界や業種を問わず全ての国民に浸透しています。例えそれが政治家であっても、人気タレントであってでもです。各テレビ局の顔でもあるメインキャスターを何週間も見ないと思ったら、それはほとんどの場合は長期休暇中だからです。日本の売れっ子テレビキャスターがそんなことしたら、ホリデーから帰る頃には席がなくなっているのではないでしょうか。でもオーストラリアでは医者であっても、しっかりシフトを組んで休暇を取得します。ある日本のスキーリゾートの担当者に聞いた話ですが、日本でのスキー旅行が大好きなオーストラリア人の歯科医がいて、さすがに1ヶ月以上のまとまった長期休暇取得は難しいらしく、1シーズンに1週間ずつ3回に分けてスキー旅行に来たとのことです。オーストラリア人のホリデー好き、日本好き、経済力を象徴するような話です。飲食店がクリスマスホリデーで2週間お休みというのも、オーストラリアでは珍しくありません。
繰り返しになりますが、なぜオーストラリア人は毎日一生懸命に働いているかというと、それはホリデーを楽しむことに他ならないからであって、この「マイトシップ」がさらに職場の雰囲気を気軽に休めるようにしているのだと思います。ちょっとした笑い話ですが、以前同僚のオーストラリア人に「1週間ホリデーで日本に行ってくるよ!」と喜び勇んで話をしたところ、なんとも言えない悲しそうな表情を浮かべ「1週間しか行けないのね。可愛そうに」と心底残念がってそう言われた経験があります。オーストラリア人は最低でも2週間から3週間でないと、それはホリデーとは呼ばないのです。
平日に旅行すればみんながハッピー
実はオーストラリアより日本の方が祝祭日はたくさんあります。なかなか休暇が取りづらい日本においては、誰にも遠慮せずに堂々と休める祝日は多いに越したことはないのですが、それに伴う弊害もあります。まず国民が一斉に休みを取ることになるので、人気の観光地や宿泊施設は大変な混みようで、それに伴い料金もそれなりの値段に設定されています。移動手段の新幹線や高速道路なども当然混み合うことになりますので、せっかくの休暇なのにむしろ疲れてしまうことも珍しくありません。どのお店も行列、アトラクションも長蛇の列、「人酔い」という言葉も生まれるほどです。一方観光客を受け入れる側にとっても、平日は少ない観光客が、週末と祝日に集中してやってくるので、スタッフの手配や仕入れ、予約管理などに至るまで、表にはでない企業努力があるのは容易に想像できます。
オーストラリアもクリスマスやイースターなど、日本のゴールデンウィークに相当するロングホリデーはあるのですが、国が定めるクリスマスの祝祭日は25日(クリスマス・デー)と翌日26日(ボクシング・デー)の2日間で、その前後の週末を合わせても4日間のみです。イースターの祝日もその週の金曜日(グッド・フライデー)と翌月曜日(イースター・マンデー)の2日間で、週末を合わせても4日間だけです。通常はこれらのホリデー時に合わせて長期休暇を取得しますが、カレンダー通りに働く人もたくさんいます。ちなみに12月25日は家族と一緒に過ごす人がほとんどなので、企業はもちろん小売店やサービス業も基本的に全てお休みです。1月1日(ニュー・イヤーズ・デー)も祝日ですが、2日から通常の生活に戻ります。このように祝祭日はあるものの人によって休みが分散されていて、また時期を選ばず長期間の休みが取得できるので、日本ほど一定の期間にホリデーが極端に集中することはありません。
新型ウイルスが発生する前のデータですが、ある旅行会社の調べによると、日本人の年間の平均旅行回数は1.3回、平均宿泊数は2.14泊であると資料に書いてありました。この数字を知り、私の日本の顧客で旅館を経営されている方の話を思い出しました。「もし日本人がもう1泊でも国内旅行してくれたら、観光業界はもっと活気がでるのに」と語っておられましたが、本当にその通りだと思います。そしてそれが週末や祝祭日ではなく平日だとしたら、経済の活性化だけではなく、雇用の拡大や経営の安定が図れ、そして何より休む人にとっても働く人にとっても随分負担が少なくなり、本来のリラックスを目的とする充実したホリデーを過ごせるはずです。休暇制度の充実は、国も企業も人も全てがハッピーになれる究極の国策なのです。これまた私の日本の顧客でペンションを経営されている方の話なのですが、「月曜日から木曜日まで4日間連泊してくれる外国人観光客が神様に見える」と。まさに日本の観光産業における課題を的確に表現した、現場の本音を語っている言葉だと思います。
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以上、拙書「生き方改革のすすめ」からほんの一部を抜粋してご紹介しました。本書はオーストラリア人のホリデーに対する考え方だけではなく、働き方や学び方など、日本人のそれとは異なる仕組みや考え方を紹介していますので、ご興味・ご関心があればAmazon.jpにて検索してみてください。
1月18日(水)クリエイトジャパンブログ
ANAがシドニー・羽田線を週14便に増便、パース・成田線も復活予定
全日空は、3月26日からシドニー・羽田便を毎日2便、週14便に増便すると1月17日に発表しました。また、2023年のウィンターダイヤより、パース・成田線を週3便で運行する予定であることも発表しました。具体的なスケジュールは別途発表とのことですが、アフターコロナを見据えた本格的な国際線再開に乗り出しました。カンタス航空も2023年からメルボルン・羽田線を再開する可能性があるようです。
そこで今日は、オーストラリアの中でも皆さんにあまり馴染みがないであろう、パースという都市について触れてみたいと思います。オーストラリアのインバウンドを狙っている事業者の皆さんは、シドニーやメルボルン、ブリスベンといった主要都市には出張で訪れたことがある方も多いと思います。また、仕事でなくてもゴールドコーストやケアンズには旅行で訪れたことがあるかもしれません。しかしパースとなるといかがでしょうか。恐らくほとんどの方は出張でも観光でも訪れたことがないのではないでしょうか。
私自身は過去に出張で数回パースを訪れたことがありますが、とにかく遠いイメージです。自転の関係や風向きによりシドニーから飛行機で4〜5時間はかかります。自動車だと東海岸に位置するシドニーから西へ4,000キロ近く走るのですから、現在サマータイムのシドニーとは3時間の時差があるのも頷けます。人口は200万人強で、主要な産業は資源です。日本の大手商社もパースに拠点を構えています。ANAがパース・成田線を運行開始した背景には、政治的な理由もあるかもしれませんが、やはりそれなりの需要があってこその決断だと思います。その需要の土台になっているのは、パース市民の経済力にあると考えます。一昔前まではそこまで富裕層が住んでいるイメージはなかったのですが、シドニー、メルボルン、ブリスベンなどの主要都市の地価が高騰するのに合わせて、当時オーストラリア国内でも比較的地価が安かったパースに資本や人が流れた結果、富裕層が増えたのかもしれません。私の知人の日本人も、シドニーの物価や不動産の高さに嫌気がさし、何人かパースに移住しました。資源ビジネスを狙った人材もパースに集まり、パースから北に位置するシンガポールからの投資も続きました。
以前とある日本の経済誌で、オーストラリアの好調な経済や賃金の高さを特集した記事を読みましたが、鉱山と港を往復するトラック運転手の年収は15万ドル(約1,350万円)と書いてありました。かなり過酷な仕事のようですが、1年だけと割り切って働く労働者も多いようです。鉱山会社が用意した宿舎に寝泊まりし、遊ぶ時間も場所もない生活が続くのですから、当然のことですがそれなりのお金が手元に残ることになります。オーストラリア人の国民性や気質を考えても、貯金をする人は少ないので、多くは不動産や投資、娯楽などに使うのだと思います。日本への直行便がない頃からシンガポール経由で日本を訪れていた人たちは、ANAの直行便運行は待ちに待った出来事だったのではないでしょうか。日本で高級飲食店経営者の方から聞いた話ですが、そんなに身なりがいいわけではないパースから来たというオーストラリア人男性が、毎日のようにお店に通って来て、連日最高級の和牛をオーダーするので不思議に思っていた、と。そこで私が今日書いた内容をお伝えしたところ、妙に納得された様子でした。
全日空からはまだ具体的なパース・成田線の再開スケジュールは発表されていませんが、少なくともウィンターシーズンには間に合うようなので期待したいところです。
1月6日(日)クリエイトジャパンブログ
中国からの旅行者に対する規制に賛否両論の声
中国が海外渡航規制を緩和したことから、日本やオーストラリアをはじめとする観光立国は、中国からの旅行者に対して規制することを決定しました。オーストラリアに入国する中国からの旅行者は、少なくとも42時間前にPCR検査陰性結果を提示する必要があります。この決定に関しては賛否両論で、連日テレビに関係者が登場し持論を展開しています。
連邦保健大臣は「中国での感染状況が正確に把握できない状況では、国民の安全を確保することが肝要である」と述べる一方、観光業界は科学的に裏づけられた判断ではないとし、この決定を強く非難しています。国際航空・運輸協会事務局長は「ウイルス感染が蔓延している国は中国だけではなく、中国からの旅行者だけに対して規制するのは適当ではない。過去3年間で規制しても効果がないと証明されているのに、このようにあっさりと規制が復活するはとても残念である」と述べています。Chinese Australia Forumの会長は「中国のウイルス感染に関する情報が不足しているのは事実だ。多くの中国系オーストラリア人とも話をしたが、今回の決定は不合理なものではない」と政府の判断を指示しています。
このようにオーストラリアでは政府の決定に対して、様々な立場のキーパーソンが活発に議論・討論し、国民もメディアを通してそれらの意見を鑑みながら個人の意見を持ち、それが最終的に国民の総意となります。移民国家の特性だと思いますが、ある特定の国や人種に対しての政策は、とても慎重かつ公正でなければいけないわけです。
一方日本では、政府の決定をメディアがサラッと報道し、それで終わっているような印象を受けるのですが、それは印象だけに過ぎないのでしょうか。そもそも現在も3回ワクチン接種者以外は、入国の際は自国民も含め全ての国籍の人がPCR検査陰性証明を必要とするのは、日本を入れて果たして何カ国あるのでしょうか。それに対して議論と討論を重ね、国民の総意として続けているのであれば良いのですが、そうではないように思えます。今の日本は世界的にも稀な厳しい水際対策を継続しており、マスク着用や手洗いなども他国より徹底しているにも関わらず、感染は抑制できていません。
シドニーでバスや電車などに乗車すると、1人から2人くらいマスクをしている人は見かけます。私自身以前はマスクをして乗車していましたが、今はその習慣がなくなってきました。レストランやパブ、スーパーでも最近は全くマスクをしていませんが、未だ感染していません。そして昔のように少しでもマスクを外したら感染する、という恐怖も今はありません。スーパー・飲食サービスなどの従業員に関しては稀にマスクをしている人を見かける程度です。日本の知人もオーストラリアの知人も、ワクチン接種していなくても全く感染しない人もいれば、ワクチン接種していても感染する人はいて、感染してもほとんどが重症化するケース(入院するなど)ではないようです。オーストラリアでは極論を言えば、感染を恐れることよりも普段通りの生活を送ることの方が重要だ、というスタンスの時期になってきているように思います。もちろん高齢者や持病がある人はそうではないので、自身をウイルスから守るために細心の注意を払っていますが、少なくとも個人の判断で行動しており、日本のように空気を読み、人目を気にして行動することはありません。
前述したオーストラリアの国際航空・運輸協会事務局長は「我々は国際的な行き来を遮断し、経済に損害を与え、雇用を崩壊させる手段に頼ることなく、ウイルス感染をマネージメントする方法をすでに手に入れている。政府は科学的な政治をするのではなく、科学的事実を持って政治にあたるべきだ」とも述べています。このように過去の実績と証明を持って、強く発言できる組織や人物が日本にはいるのか、いるとしたらその役目はどなたなのか、ふとそんなことを思いました。