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3月15日(水)クリエイトジャパンブログ


オーストラリア市場の魅力

前回のブログでご紹介した「オーストラリア人のホリデーの考え方」はとても好評で、いろいろな方から大変参考になったとご連絡いただきました。そこで今回も拙書「生き方改革のすすめ」から、「オーストラリア市場の魅力」について触れている箇所を抜粋してお届けします。全体を通して本書を読まないと、話の流れは掴めないかもしれませんが、経済パートナーとしてのオーストラリアの魅力はご理解いただけるかと思います。一般読者向けに執筆した書ですので、インバウンド業界の皆さまにとっては当たり前の情報もありますが、少しでも参考になれば幸いです。


以下、第二章「オーストラリアから学ぶ理由とメリット」から抜粋


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大国だけでなく小国からも学ぶ必要がある


その後留学機関での仕事を終え、東京のIT系システム会社で働くことになりますが、転職した理由はインターネット社会の始まりです。留学機関で働き始めた当時、まだインターネットは普及しておらず、留学生の募集は教育機関からの紹介や地元新聞広告に頼っていました。そうこうするうちに瞬く間にインターネットが普及し始め、見様見真似でホームページを作ってみたところ全国から問い合わせが相次ぎ、これから時代が大きく変化して行くことを感じ取りました。そこで実際にIT企業に身を置き、そのノウハウを培おうと思い立ち東京での生活を始めたのです。その会社でも営業を担当しシステム開発やアプリケーションの販売が主な仕事でしたが、海外での営業経験が買われ1年の3分の1ぐらいは現地法人のあったアメリカのシカゴに出張していました。そこで初めてアメリカ人と仕事をすることになるのですが、どちらが良い悪いということではなく、オーストラリア人とアメリカ人とでは同じ西洋人でも働き方や物の考え方が大きく違うことを実感しました。


日本は長年アメリカという大国からいろいろな影響を受け、そして多くのことを学んできましたが、もっと多くの国、特に日本よりも小国と呼ばれる国や成功している国からも学ぶべきだ、と考え始めたのもこの頃です。例えば「英語」という言語一つとっても日本は今もなおアメリカ英語が中心ですが、世界にはいろいろな種類の英語が存在します。同じ英語でもそれぞれの特徴があり、独自の言い回しや表現方法があります。それと同じように「働き方」「教え方」「遊び方」も国によって異なることを理解し、時にはそれを見習い、その改善に取り組んでいく必要があると思います。日本が誇るべき伝統、文化、風習などは多々ありますし、実際日本を「尊敬」や「憧れ」という言葉で表現する人々が世界には溢れています。しかしながら大変残念なことではありますが、日本の「働き方」「教え方」「遊び方」に対して、「尊敬」や「憧れ」の念を抱く人は限られています。むしろ「同情」や「違和感」を抱く人が多いのではないでしょうか。


では日本から見たら小国で、欧米に比べたら存在感の薄いオーストラリアという国から、日本は学ぶことなどあるのでしょうか。経済大国世界第3位の日本が、G7にも入っていないオーストラリアから見習うことなどあるのでしょうか。その答えを少しずつ紐解いていきます。


経済パートナーとして必須のオーストラリア


日本とオーストラリアは貿易や投資などを通じて、密接かつ良好な経済パートナー関係が築かれていますが、ここでは私の専門分野でもあるインバウンド業界を例に説明したいと思います。


私が日本での生活を切り上げて再びオーストラリアに渡ったのは、2000年に開催されたシドニーオリンピックの翌年でしたが、1回目と2回目の滞在とでは何もかもが大きく違っていました。物価の高さ、人の多さ、高層ビルの建設ラッシュ、商業エリアや新興住宅エリアの大規模開発、車は新車と高級車だらけ、まるで別の国に来たような錯覚に陥りました。ところが都市中心部からちょっと郊外に足を延ばすと、そこには以前とちっとも変わらない美しい自然がそのまま残っていて、これこそが自然との調和を重視したオーストラリアの経済政策の真骨頂だと思いました。私のハートを射止めたボンダイビーチも、以前より随分と観光客は増えたとは言え、2001年の再訪時もそして今現在も、「ボンダイブルー」は相変わらず美しい輝きを放っています。


1回目の滞在当時はまだ日本のバルブ経済の余韻が残っていたので、オーストラリアには毎年100万人近くの日本人観光客が訪れ、邦人駐在員とその家族も大勢住んでいました。私の仕事も日本人向けガイドブックなど、日本語メディアの営業やマーケティングの仕事がメインでした。しかしバブル経済の余韻は長くは続かず、この30年の間に日本人観光客は3分の1近くまで落ち込み、駐在員の数は半減しました。一方オーストラリアは、独自の移民法を活用して基幹産業に貢献する優秀な人材を海外から確保し、着実に人口を増やしながら堅実な経済成長を成し遂げました。ちなみにオーストラリアから日本への観光客数はコロナ直前で年間57万人以上に達し、日本からオーストラリアへの観光客数(2018年時点で約27万人)を大きく上回ります。観光業界における経済効果は人数ではなく「人数×一人あたりの消費金額」で算出しますので、オーストラリア人が日本の観光で費やした金額は約1千4百億円、日本人がオーストラリアの観光で費やした金額は約1千億強で、観光だけで見るとオーストラリア人の方が経済的に貢献していると言えます。ちなみに日本の人口は約1億3千万人、オーストラリアの人口は2千6百万人足らずなので、人口5分の1程度の小国にもかかわらずです。その要因は経済力だけではなく、社会の仕組みやルールにも起因しています。このことは第五章「休み方・遊び方改革のすすめ」で詳しく述べたいと思います。


話は戻りますが、日本とオーストラリアの経済状況の大きな変化により、必然的に私の仕事内容も大きく変わっていくことになります。日本人観光客や在豪法人の減少により、日本語のオーストラリアガイドブックの需要が減ってきたのです。その時にふと思いました。「そういえば自分はずっと日本の経済力に頼り、日本人がオーストラリアで消費するお金で生きてきたな。今からはその恩返しのつもりで、オーストラリアの経済力を何らかの形で日本に還元できないだろうか。オーストラリア人の消費を少しでも日本で費やせないだろうか」と。その想いから仕事内容が日本への観光プロモーションへと大きくシフトしていくことになります。


そこで当時はまだ珍しかったオーストラリア人向けの英語による日本ガイドブックを発行していたのですが、日本への出張を始めたきっかけは、ほんの些細な出来事が発端でした。ある日オフィスビルの共同トイレで手を洗っていたところ、隣のオフィスのオーストラリア人が突然話しかけてきたのです。「あなたは日本人だよね。僕は隣の不動産屋で働いているのだけど、『ニセコ』って知っている?」と。恥ずかしながらその時私は、「ニセコ」が地名どころか、果たしてそれが食べ物なのか人名なのか、はたまた当時人気があった日本のアニメのタイトルなのか、さっぱり検討がつかず「全く思いつかないけど、それは何?」と尋ねました。すると彼は「北海道にあるスキーリゾートだけど、今凄くオーストラリア人に人気で、物件の問い合わせが増えている。あなたがもし何かニセコの情報を持っていたら聞きたくて」と説明してくれました。その後オフィスに戻りすぐネットで調べたところ、確かにニセコは札幌から近い良質の雪が降ることで有名なスキー場であることがわかりました。その後長年に渡り毎年日本各地を回ってプロモーションの打ち合わせをすることになるのですが、当時のニセコへの10日間の出張は、私の人生を大きく変えるターニングポイントとなりました。日本への観光促進の仕事に携わって15年以上経ち、少しは日本の観光産業のお役に立てたのではないかと思っているところです。


一時的ではない長期的なパートナーシップ


話を経済の話に戻すと、なぜオーストラリアは安定した経済発展を持続できるのか、専門的な話になると長くなりますので、ここでは私なりの主なポイントだけ記しておきます。


●鉄鉱石などの豊富な資源と広大な領土

●独自の移民法を活用した人口統制と海外からの優秀な人材確保

●自給自足率220%を誇る安定した農・畜産業

●留学産業と観光産業における莫大な外貨獲得

●金融システムとITシステムの充実

●環太平洋経済圏に位置する抜群のロケーション


こう並べてみると、むしろ経済が後退する要因を探す方が難しいかもしれません。いずれにせよ冒頭で述べた通り私は経済学者ではありませんので、経済発展の要因を詳しく知りたい方は専門書を読んでいただければと思います。


観光業界における経済効果の算定は、人数だけでなく滞在日数や消費金額に起因することは前述しました。しかし他にも大きな要素がいくつかあります。その一つが日本を訪れる「季節」や「時期」です。日本のインバウンド業界に携わる多くの人は、外国人観光客を「インバウンド」と言う言葉で一括りにしがちで、オーストラリアもインバウンドの一部と捉えて他国と横並びで比較されることが多いのですが、オーストラリアが南半球の国だと言うことを今一度認識する必要があります。言うまでもなく日本や他の北半球の国とは季節が逆なので、日本のインバウンド業界にとって最も閑散期の冬に、しかも長期間訪れてくれるのがオーストラリア人なのです。一年の間で一番長期休暇が取りやすく、家族単位で活発に活動でき消費意欲も高い時期は、北半球でも南半球でも万国共通で夏休みだからです。オーストラリアの夏休み(サマーホリデー)はまさに「国民大移動」という表現がぴったりで、大挙して国内旅行や海外旅行に出かけます。北海道や信州・長野、東北などに、多くのオーストラリア人がスキー旅行に訪れているニュースを聞いたことがあると思いますが、まさにオーストラリアの夏休みは日本のスキーシーズン真っ盛りなのです。


そしてもう一つ経済効果を計測する上での重要な要素は、その「リピート率」の高さです。言うまでもありませんが一度来日して終わりではなく、毎年のように、または1年に何回も訪れてもらった方が経済効果は大きくなります。日本人がハワイを好きになり何度も訪れたり、芸能人が毎年のように年末年始をハワイで過ごしたりするのと同じように、一度日本を訪れたオーストラリア人はかなりの確率で再び日本を訪れます。スキー旅行の場合は雪質の高さに感嘆し、まず間違いなくその虜になります。フワフワな粉雪を「SNOW POWDER(スノーパウダー)と呼びますが、北海道や信州・長野、東北など日本のスキーリゾートのパウダーを「JAPOW(ジャパウ)」と名付けて、それを楽しむために毎年のようにスキー旅行に出かけます。日本人が白いビーチの南国に憧れるように、オーストラリア人は銀世界の北国に憧れるのでしょう。もちろんスキー旅行以外の観光も大人気で、JRが提供している乗り放題パスを駆使して、日本全国を縦横無尽に駆け巡ります。そして日本人のおもてなしの心、バラエティー豊かな美味しい料理、物価の安さ、古くから伝わる文化や風習、最先端をいくサブカルチャーなどを体感し、日本の魅力に取り憑かれることになります。オーストラリア人から見た日本の魅力を語りだすと熱くなり過ぎて、それこそ一冊の本が書けてしまうので本書ではこの程度でとどめておくことにします。


ちなみにコロナ前のオーストラリアの海外旅行者延べ人口は年間約1千2百万人弱、全国民の半分近くになります。数字の上での計算ですが、国民の二人に一人は毎年海外旅行をしているとはなんと豊かなのでしょう。お金があれば家や車や宝石は買えますが、海外旅行に出かけるにはお金以外に自由に使える時間や休暇制度、そして気軽に休める仕組みがないとできません。それについては第五章で詳しく触れます。


観光や資源などの経済的なつながりの他に、文化や教育、政治的なつながりにおいても日本にとってメリットは多々あると思いますが、本書の趣旨とは異なりますのでここでは割愛します。いずれにせよ今後も長期的な発展が期待できるオーストラリアは、日本にとって観光産業などを含む経済パートナーとして大切な存在なのは間違いありません。人口も日本とは対照的に2050年には現在の約1.5倍、4千万人に達すると言われています。とても言いづらいことではありますが、日本から見て小国や格下だと思っていた国はとっくに日本を抜き去り、日本よりよほど発展して暮らしやすい国になっていることを、そろそろ真剣に受け止め、学ばないといけない時期にきていると思うのです。


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以上、拙書「生き方改革のすすめ」からほんの一部を抜粋してご紹介しました。本書はオーストラリア人のホリデーに対する考え方だけではなく、働き方や学び方など、日本人のそれとは異なる仕組みや考え方を紹介していますので、ご興味・ご関心があればAmazon.jpにて検索してみてください。

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