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2月15日(水)クリエイトジャパンブログ


オーストラリア人のホリデーに対する考え方

今回のブログは少し趣向を変えて、筆者が2022年2月にAmazonから刊行させていただいた、拙書「生き方改革のすすめ」から一部を抜粋して、オーストラリア人のホリデーに対する考え方をご紹介します。全てのオーストラリア人、全ての日本人に当てはまるわけではありませんが、国民のおおよそ7割〜8割の人が該当すると思います。本書は日本の将来を想い、オーストラリア人のライフスタイルが参考になればと思い執筆したものですが、日本のインバウンド業界の皆様にとっても関連のある内容となっています。今後何かのヒントになればとても嬉しく思います。


まずは、第二章「オーストラリアから学ぶ理由とメリット」から抜粋します。


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ホリデーありきの人生

まず「休み方(遊び方)」ですが、本書では「家族との時間共有や過ごし方」、「休暇や週末の過ごし方」を意味します。これはオーストラリア人にとって最も重要な人生のテーマであり、人生観やライフスタイルを確立するための大きな要素となっています。人生の中心に位置すると言っても過言ではありません。この「休み方(遊び方)」を達成するために「働き方」があり、その「働き方」を充実させるために「教え方(学び方)」がある、と言って良いほどそれぞれが密に連結しています。


例えとして「休暇(ホリデー)」に対する考え方を説明します。日本人にとって「休暇(ホリデー)」とは、一般的には何か達成したときの自分への褒美や、身体的・精神的に休養が必要な際に取得するものと考えている人が多いと思います。つまり「頑張った結果」や「疲れた結果」として「休暇」が存在します。「今年はよく働いて稼いだから冬休みは家族でハワイに行こう」とか「ストレスがたまってこのままだと病気になってしまうからそろそろ温泉でのんびりする時間が必要だ」といった感じです。


ところがオースラリア人は逆の発想で、何はともあれまずは「休暇」の時期や期間、訪れる国や地域などを予め計画します。そしてその計画が実現できるように、休暇以外の時期をどのように過ごすかをざっくりとですが設定します。「次の夏休みは家族で日本へ旅行に行くからそれまでに200万ぐらいは貯めておこう」とか「今度の冬休みは彼女とバリ島で数週間のんびりしたいからそれまでは有給は使わずにとっておこう」といった感じです。実際、日本へのスキー旅行はオーストラリア人に大人気なので、予約の取りづらい人気ホテルは1年ぐらい前から、中には2年前から予約する人もいるほどです。つまりホリデー(休暇)ありきの考え方で、よっぽどの事が起きない限り計画を変更することはありません。仮に経済的な要因で計画に支障が出てきた場合でも、金融機関からホリデーローンを借りて計画通りに海外旅行する人も少なくありません。これがホリデーに対するオーストラリア人の一般的な考え方です。

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続いて、第五章「休み方・遊び方改革のすすめ」から抜粋します。


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充実した有給休暇制度

細かな規則や条件は州によっても異なりますので、別の専門書を参考にしていただければと思いますが、大まかに説明すると、消化できなかった有給休暇は退職・転職の際に、会社が本人から買い取ることになります。例えば月20日勤務の月給30万円の人が20日間の有給休暇を消化できなかった場合、会社は本人に30万円を払って休暇を買い取る必要があります。消化できない有給が2ヶ月間(40日)だとしたら60万円です。そもそも2ヶ月分も有給があるの?と思われるかもしれませんが、週5日フルタイム労働者は年間4週間(20日間)の有給が与えられるので、2年間で40日になります。企業との契約にもよりますが、勤続年数が長ければ長いほど有給休暇は増えていく仕組みですので、同じ会社に長年勤めている人が有給休暇を消化しなければ、どんどん溜まっていきます。転職しながらキャリアップする人が多い国なので、優秀な人材を確保するために、長期間(例えば10年)に渡って勤務した人には更に長期勤労有給休暇も用意されています。


つまり企業にとってこの制度は、有給休暇を消化してもらわないとキャッシュフローが厳しくなる仕組みになっています。ほとんどの人はきちんと有給休暇を取得しますが、中には生活や貯蓄のためにわざと休暇を取らず現金をもらいたがる人もいます。こういう人は企業からすると少しやっかいな存在で、会社に貢献しているとはみなされません。日本とは全く逆の考え方です。どのオーストラリアの企業も、全ての従業員が有給休暇を取得することを前提に人材確保や人員配置、シフトやチーム作りを決定します。しかしながら大手企業ならいざ知らず、小規模の企業にとってこの制度は大きな財政負担になることから、現在はフリーランスやコントラクター(契約ベース)といった働き方も拡大しています。働く側も正規雇用ほど社会保証は適用されませんが、自由な時間で働けたり自分の都合で仕事を選べたりできるので、この形態は今後ますます一般化していくと思います。特に今後の「ウィズコロナ」の生活においては、更に定着していくことになるでしょう。


長期休暇を取得しても後ろ指を差されない社会

そして労働者が気兼ねなく長期休暇が取得できるもう1つの大きな要因は、職場がホリデーを取得する人を歓迎する雰囲気に満ちていることです。前述した金融機関時代の思い出、つまり長期休暇を取った人を後ろ指でさすのとは全く逆の雰囲気がオーストラリアにはあります。誰かがホリデーに行くとなると、周りは羨みながらも自分のことのように喜び、仕事もきちんと引継ぎ、旅行の土産話を楽しみにします。この仕事の助け合いを各自がホリデーに行くごとに繰り返し、全員が均等にきちんとホリデーを取得することになります。このような助け合い精神をオーストラリア人は「マイトシップ(Mate Ship)」と呼びます。この言葉はインターネットで検索すると出てきますが、オーストラリアに昔から伝わる古い気質みたいなもので、困っている人を助ける意識や精神を表しています。ここオーストラリアで暮らしていると、日々この「マイトシップ」に触れることになりますが、とても温かく、慈愛に満ちた精神だと感じます。この助け合い精神に関しては次の章でも少しだけ触れようと思います。


このようなホリデーに対する基本的な考え方は、業界や業種を問わず全ての国民に浸透しています。例えそれが政治家であっても、人気タレントであってでもです。各テレビ局の顔でもあるメインキャスターを何週間も見ないと思ったら、それはほとんどの場合は長期休暇中だからです。日本の売れっ子テレビキャスターがそんなことしたら、ホリデーから帰る頃には席がなくなっているのではないでしょうか。でもオーストラリアでは医者であっても、しっかりシフトを組んで休暇を取得します。ある日本のスキーリゾートの担当者に聞いた話ですが、日本でのスキー旅行が大好きなオーストラリア人の歯科医がいて、さすがに1ヶ月以上のまとまった長期休暇取得は難しいらしく、1シーズンに1週間ずつ3回に分けてスキー旅行に来たとのことです。オーストラリア人のホリデー好き、日本好き、経済力を象徴するような話です。飲食店がクリスマスホリデーで2週間お休みというのも、オーストラリアでは珍しくありません。


繰り返しになりますが、なぜオーストラリア人は毎日一生懸命に働いているかというと、それはホリデーを楽しむことに他ならないからであって、この「マイトシップ」がさらに職場の雰囲気を気軽に休めるようにしているのだと思います。ちょっとした笑い話ですが、以前同僚のオーストラリア人に「1週間ホリデーで日本に行ってくるよ!」と喜び勇んで話をしたところ、なんとも言えない悲しそうな表情を浮かべ「1週間しか行けないのね。可愛そうに」と心底残念がってそう言われた経験があります。オーストラリア人は最低でも2週間から3週間でないと、それはホリデーとは呼ばないのです。


平日に旅行すればみんながハッピー

実はオーストラリアより日本の方が祝祭日はたくさんあります。なかなか休暇が取りづらい日本においては、誰にも遠慮せずに堂々と休める祝日は多いに越したことはないのですが、それに伴う弊害もあります。まず国民が一斉に休みを取ることになるので、人気の観光地や宿泊施設は大変な混みようで、それに伴い料金もそれなりの値段に設定されています。移動手段の新幹線や高速道路なども当然混み合うことになりますので、せっかくの休暇なのにむしろ疲れてしまうことも珍しくありません。どのお店も行列、アトラクションも長蛇の列、「人酔い」という言葉も生まれるほどです。一方観光客を受け入れる側にとっても、平日は少ない観光客が、週末と祝日に集中してやってくるので、スタッフの手配や仕入れ、予約管理などに至るまで、表にはでない企業努力があるのは容易に想像できます。

オーストラリアもクリスマスやイースターなど、日本のゴールデンウィークに相当するロングホリデーはあるのですが、国が定めるクリスマスの祝祭日は25日(クリスマス・デー)と翌日26日(ボクシング・デー)の2日間で、その前後の週末を合わせても4日間のみです。イースターの祝日もその週の金曜日(グッド・フライデー)と翌月曜日(イースター・マンデー)の2日間で、週末を合わせても4日間だけです。通常はこれらのホリデー時に合わせて長期休暇を取得しますが、カレンダー通りに働く人もたくさんいます。ちなみに12月25日は家族と一緒に過ごす人がほとんどなので、企業はもちろん小売店やサービス業も基本的に全てお休みです。1月1日(ニュー・イヤーズ・デー)も祝日ですが、2日から通常の生活に戻ります。このように祝祭日はあるものの人によって休みが分散されていて、また時期を選ばず長期間の休みが取得できるので、日本ほど一定の期間にホリデーが極端に集中することはありません。

新型ウイルスが発生する前のデータですが、ある旅行会社の調べによると、日本人の年間の平均旅行回数は1.3回、平均宿泊数は2.14泊であると資料に書いてありました。この数字を知り、私の日本の顧客で旅館を経営されている方の話を思い出しました。「もし日本人がもう1泊でも国内旅行してくれたら、観光業界はもっと活気がでるのに」と語っておられましたが、本当にその通りだと思います。そしてそれが週末や祝祭日ではなく平日だとしたら、経済の活性化だけではなく、雇用の拡大や経営の安定が図れ、そして何より休む人にとっても働く人にとっても随分負担が少なくなり、本来のリラックスを目的とする充実したホリデーを過ごせるはずです。休暇制度の充実は、国も企業も人も全てがハッピーになれる究極の国策なのです。これまた私の日本の顧客でペンションを経営されている方の話なのですが、「月曜日から木曜日まで4日間連泊してくれる外国人観光客が神様に見える」と。まさに日本の観光産業における課題を的確に表現した、現場の本音を語っている言葉だと思います。

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以上、拙書「生き方改革のすすめ」からほんの一部を抜粋してご紹介しました。本書はオーストラリア人のホリデーに対する考え方だけではなく、働き方や学び方など、日本人のそれとは異なる仕組みや考え方を紹介していますので、ご興味・ご関心があればAmazon.jpにて検索してみてください。

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